労務管理


  労務管理:ハラスメントとは? 2021.07.31

ハラスメントとは?

ハラスメントとは、加害者の故意の有無に関係なく被害者を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威・苦痛を感じるような全ての言動とされている。つまり、弱い立場の相手にする『嫌がらせ・いじめ』を言います。

 

労働安全衛生法・第71条の2(快適な職場環境の形成のための措置)

事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
1. 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
2. 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
3. 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
4.前3号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置

会社は、従業員のために快適な職場環境を提供できるように努める、となっています。直接ハラスメントの言葉はありませんが、ハラスメントがない職場を提供する義務が会社側にあります。ですが、実態は・・・

個別労働紛争解決制度の施行状況(令和元年度)では、下記に記載していますが、いじめ・嫌がらせがトップに来ており、快適な職場環境とはいいがたい状況です。

 

深刻な労働問題に発展しやすく、違法性が高いハラスメント

 

◆ 職場での立場や優位性を利用したパワー系ハラスメント
優位な立場を利用しての嫌がらせや業務や人事評価などに影響を与え、職場環境を悪化させるタイプのハラスメント。
労働基準法、労働契約法、育児介護休業法などに違反する可能性あり。

◆ 性的・人種的差別・侮辱に関するセクハラ系ハラスメント
職場上の立場を利用して、嫌がっている人に対し身体に触れたり性的な言動を行ったりすることや、性別や人種で差別して個人や周囲の人を不快な気持ちにさせるハラスメントです。
セクハラ系ハラスメントは、男女雇用機会均等法に違反する可能性あり。

◆ 身体を壊す労災系ハラスメント
相手の体調を損なうようなハラスメントを行うことで、会社を休ませたり、会社に来れない状態にしたりするハラスメントです。

ハラスメントが起こりやすい環境の特徴

① コミュニケーションがない
② ミスが許されない職場雰囲気
③ 酷使されがちな労働環境

「ハラスメント」の対策

 

◆ 法律のアナウンス
1999年の男女雇用機会均等法では職場でのセクシャルハラスメント防止措置
2017年には男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が改正され、妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメント防止措置
さまざまな法律が規定されて、事業主に義務付けられていることを社内周知する。
◆ 従業員へ周知
「ハラスメント」の基本的な知識、実態、対策の必要性、具体的な対処方法など社内研修等を利用して説明する。
◆ プライバシーの保護
「ハラスメント」の対応を進めるにあたっては、相談者が何も心配せずに相談できるようプライバシー保護に配慮する必要がある。
◆ 相談窓口の設置
相談窓口を設けて、従業員が安心して相談できる体制作りや、メール、電話、対面など相談方法の多様化も重要となってくる。
働き方改革は、働きやすい職場環境作りである。「ハラスメント」が起きないような社内制度やルールを整えていきましょう。

ハラスメントで傷ついてしまった場合の対処方法

ハラスメントで傷ついてしまったり疲弊してしまったりした場合は、自分だけで抱え込まず周囲を巻き込むようにしましょう。
1.一人で我慢したり、無視したり、受け流しているだけでは必ずしも状況は改善されないので、勇気をもって行動し、はっきりと自分の意思を相手に伝えましょう。そのとき、一人だと心配なら信頼している人に立ち会ってもらうのがいいでしょう。
2.身近で信頼できる人に相談する。そこで解決することが困難な場合には、相談窓口に申し出るなどの方法を考えましょう。
3.ハラスメントを受けた日時、内容等について出来るだけ詳しく記録しておきましょう(可能であれば第三者の証言を得ておくことが望ましいです)。
4.自分の周りで被害にあっている場面を見かけたら、見すごさずに行為者に対し注意をうながすか、相談窓口等に助力を求めるように促しましょう。

ハラスメントには50以上の種類があり、重度の嫌がらせから、軽度の嫌がらせまで幅広く存在します。ハラスメントについては、会社全体として予防の措置や制度運用に取り組むことが必須となります。職場のハラスメントを放置すれば、労働者本人の意欲低下や退職リスクが高まるだけでなく、職場全体の雰囲気の悪化や企業評判の低下をまねくこともあります。



  労務管理:コンプライアンスとは?  2021.07.28

コンプライアンスとは?

コンプライアンスとは英語でComplianceと表記し、単語そのものの意味は「命令や要求に従う」ことをいいます。コンプライアンスの日本語が法令遵守と訳されることが多いため、「法令遵守」というと、「法令を守ればよい」と捉えやすいですが、コンプライアンスは「法令を守ればよい」ということではなく、法令を遵守するのは当たり前のことで、最低限のことにすぎません。「法律として明文化されてはいないが、社会的に認識されているルールに従って企業活動を行う」の意味があります。

 

背景

 

企業経営においてコンプライアンスが重要視されるようになった要因

1.規制緩和
1990年代後半以降、規制緩和が進んだことで、自由な経済活動に伴う責任ある行動を企業に求める動きが加速するようになりました。また、コンプライアンスに対する法律の整備が進んだこともあり、コンプライアンス重視の風潮が広がったのです。

2000年12月1日閣議決定「行政改革大綱」で、『企業における自己責任体制を確立し、情報公開等の徹底を図るものとする』ことから規制改革が推進された。

2.企業不祥事の増加
自由な経済活動が行われた結果、建物の耐震基準偽装、食品の産地偽装、顧客の情報流出などの企業不祥事が増加したことと無関係ではありません。このことがきっかけで企業のコンプライアンスが重視されるようになりました。

また、粉飾決算による倒産も、企業にコンプライアンス重視を求める要因の一つとなりました。例えば、エンロン、ワールドコムの倒産などアメリカでしたが、これを契機に、コーポレートガバナンスを重視する姿勢が鮮明になり、監査の独立性や情報開示の強化などを規定した企業改革法(J-SOX法)が制定されています。同じころEUでも「企業の社会的責任(CSR:corporate social responsibility)に関するグリーンペーパー(政策の提案)」を発表するなど、推進を進めています。

3.法改正対応
先ほどの閣議決定された「行政改革大綱」の方針で、関連法の改正も実施された。会社法の改正では、「資本金5億円以上もしくは負債総額200億円以上の企業は、適正な業務の遂行を確保するための体制の構築」を義務付けています。また公益通報者保護法が施行され、企業内部からその不正を告発した者に対し、解雇を含む不利益な扱いが為されないよう企業に求めています。

このようにして、企業の不祥事、粉飾決算による倒産、法改正などにより、企業のコンプライアンス重視の姿勢を要求するようになってきました。

コンプライアンスの取り組み


 

◆ 行動基準の明確化
企業の基本方針や行動指針を定め、全社員で共有することがコンプライアンス体制を構築するためのスタートです。また、企業にとって守るべき法令や社内の規則、違反行為が行われたときの処罰などを明確にするコンプライアンスマニュアルを作成することで、意識啓発に生かせます。何より行動規範を実践するためには、トップがメッセージを呼びかけるなど積極的な行動が必要です。

◆ 相談しやすい職場環境
コンプライアンスに対する行動を実践させ、実効性のあるものにするためには、情報共有や意見交換を行える職場環境づくりが必要です。具体的には、社員がコンプライアンスに関する報告や相談ができる窓口を設けるなどもひとつの方法です。また社内で問題が提起されたときのために、委員会制度の導入も効果的でしょう。もしコンプライアンス上の問題が発生したときは、状況の把握や対応、トップへの報告など、権限を持って素早く対処することができるようにする体制作りも重要です。

◆ 社員研修
コンプライアンスを推進するためには、社員が正しい知識を身につけ、行動できることが重要です。いくらコンプライアンス体制が構築されていても、きちんと研修・教育が行われなければ社員に浸透しません。

研修内容
●  責任範囲や実務経験などの階層別
●  ディスカッションなどの参加型講義
●  eラーニングを活用

◆ 常に最新版で
コンプライアンス体制の維持その運用のために、常に基本方針や行動指針、コンプライアンスマニュアルを最新版の状態で管理して全社員に共有することも重要です。
また、行動基準やコンプライアンスマニュアルなどを新規で作成した場合、他の書類と矛盾がないかも確認しなければなりません。

◆ モニタリング・内部監査実施
行動基準で定められた基本指針やコンプライアンスマニュアルなどが、適切に運用されているのか定期的に検証します。アンケートなどをモニタリングの実施、内部監査を実施することで、コンプライアンスが適切に運用されていることを検証し、違反防止に努めます。

 

さきほど「企業の社会的責任(CSR:corporate social responsibility)に関するグリーンペーパー(政策の提案)」が出てきましたが、CSRとは?

 

CSRとは何か?

日本語で「企業の社会的責任」を指す言葉で、社会と企業の持続的な発展を目指す新しい企業像を意味するものとでもいえるでしょうか。欧州委員会は、「責任ある行動が持続可能な事業の成功につながるという認識を、企業が深め、社会・環境問題を自発的に、その事業活動およびステークホルダーとの相互関係に取り入れるための概念」とCSRを説明しています。

そのためコンプライアンスを推進するにあたり、必要となるのが「CSR(企業の社会的責任:corporate social responsibility)」の考え方です。社会的責任の対象には、株主、取引先、従業員はもちろんのこと、地域住民など、企業が関係する利害関係者全てとなっており、それらに対して責任を果たす必要があります。

1.企業倫理
企業倫理は、「企業が経済活動を行う上で、守らなければいけない重要な考え方」で、法令にとどまらず、労働環境や道徳的な考え方など、法令以外の範囲も含まれます。

2.コーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスは、「コンプライアンス遵守の上で、モニタリングやチェックを行う仕組み」です。

3.SDGs(持続可能な開発目標)
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連サミットで採択され、2015年から2030年の間に達成するために掲げられた17の目標です。SDGsは、CSR達成のための基準の一つとして捉えている企業が増えています。

 

 

CSRの意味を理解し、責任を果たすべき対象と項目を捉えることで、コンプライアンス遵守につながるのです。



  労務管理:労務管理とは? 2021.07.27

労務管理とは?

労務管理とは、従業員の労働条件(賃金・労使関係・労働契約)の管理や、労働環境(健康診断・安全衛生)の整備など、会社の労働に関する内容全般を管理することです。「人」に関わる仕事で、よりよい労働環境を整え、従業員が高いパフォーマンスを発揮できるようサポートをすることで、企業活動を円滑に進めるための重要な役割を担っています。適切な労務管理を実施することで組織の活性化や生産性向上につながり、企業の発展に貢献します。

 

労務管理の役割

企業には、「ヒト」・「モノ」・「カネ」の3つの経営資源があると言われています(「情報」を加えて4つという場合もあります)が、そのうちの1つである「ヒト」に関する全般を管理するのが労務管理の役割です。労務管理を通じて、従業員が心地よく働くためには職場環境を整えることが不可欠であり、人材を企業に定着させる大きな役割を担っているといえます。

 

最終目標は、
● 生産性の向上
適切な報酬管理や労働環境の改善によって、従業員の職場づくりをサポート
● リスクの回避
労働法の管理や福利厚生などの諸手続きを滞りなく進めることで、法令違反によるリスクを回避

 ⇒ 特に労働法に関しては、労働基準法・労働組合法・最低賃金法・労働契約法・労働安全衛生法・パートタイム・有期雇用労働法・男女雇用機会均等法などの数多くの法律が関わってきます。

最近では、長時間労働による過労死やコンプライアンス違反が横行していることから、この事でも役割を期待されています。

労務管理の主な業務

 

◆ 就業規則の作成・整備・管理
就業規則とは、従業員の始業や終業の時刻、休憩時間、休日・休暇、賃金など労働条件、労働者が遵守すべき職場内の規律やルールなどをまとめた規則のことです。入退社時の手続き、労働時間(始業・終業)や休憩、休日・休暇、賃金など、従業員が会社へ入社してから退社するまでに必要な内容が記載されています。就業規則は、従業員が会社内で守らなければならない規則が記載されていることから『会社のルールブック』とも呼ばれています。
常時10名以上の会社は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。

従業員は、就業規則の内容に基づいて働くことから、よりよい職場環境を提供できるように、実態に合わせて適切に管理することが重要です。また法律を守ることは当然ながら、労働契約の内容を定めたものでもあるのでその点からも管理が必要です。社内ルールの明確化や労使間のトラブル防止の観点からも大切な業務となるでしょう。

就業規則とは?        ☚ 説明あり

◆ 労使協定の作成・管理
使用者と労働者が話し合った結果をまとめる労使協定の作成・管理も、労務管理における重要な業務です。
● 就業規則(変更)届・意見書
● 時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)届
● 事業場外労働に関する協定届
● 1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届
● 1年単位の変形労働時間制に関する協定届
● フレックスタイム制に関する労使協定書
● 1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届
● 専門業務型裁量労働制に関する協定届
● 賃金控除に関する協定書                 など

◆ 労働条件の管理
労働契約を締結する際は、労働基準法や就業規則を遵守することが重要です。そして、従業員がその内容を遵守して労働できるように、採用後も労働条件の管理が重要なポイントです。

◆ 法定三帳簿
「労働者名簿」・「賃金台帳」・「出勤簿」のことを、合わせて「法定三帳簿」といい、労務管理の基本です。これらは、労務管理において非常に重要な役割を果たします。

1. 労働者名簿
従業員の必要な情報をまとめたものが労働者名簿で、氏名・生年月日・異動などの履歴・性別・住所・業務の種類・雇用年月日・退職の日付と理由などを記載します。

 

2. 賃金台帳
賃金台帳は、従業員の賃金の支払をまとめたものになります。氏名・性別・賃金の計算期間・労働日数・労働時間・「残業時間・休日労働時間・深夜残業時間」・「基本給・手当などの項目と金額」・控除項目と金額などとなります。

 

3.  出勤簿
従業員の出勤状況を記録したものが出勤簿です。雇用主が労働日、労働時間、時間外労働など出退勤の状況を確認したり、従業員がタイムカードで記録したりしたものを出勤簿として保管します。

 

◆ 入退社の手続き
採用時には、その企業の従業員となるための必要な手続きを行います。契約関係以外にも、社会保険・雇用保険の手続き、給与振込口座の確認などさまざまな手続きが必要です。

また、退職にあたっては、加入している社会保険・雇用保険などの資格喪失手続き、退職証明書や源泉徴収票の発行などの業務が必要です。退職金制度を設けている場合は、就業規則などに従って退職金の支払を行います。退職関係の手続きは、従業員が気持ちよく次のステップにスムーズに移る上で大切な業務です。

◆ 給与計算
従業員を雇用する全ての企業で必要な「給与計算」も、労務管理業務の一つです。従業員の勤怠をしっかりと把握し、残業や休日出勤など従業員一人ひとりの労働実態を踏まえて、金額を間違わないように支給金額を確定しましょう。給与を支払う際には、社会保険料や雇用保険料などの控除額を正しく計算することも求められます。給与は従業員の生活に直結する要素のため給与額に誤りがあると、従業員とのトラブルに発展する可能性があるため、間違いのないように細心の注意を払いましょう。

従業員の給与から控除した税金や社会保険料は、忘れずに納付しましょう。生命保険や社宅費、組合費などを徴収する場合には、賃金控除の協定を締結する必要があります。年末調整は、毎年11~12月に年末調整業務が発生します。

◆ 安全衛生の管理
安全衛生は、従業員の健康増進や良好な職場環境を保つために必要な管理です。労働安全衛生法では、健康診断の実施をはじめとしたさまざまな安全衛生に関する義務や配慮が定められています。具体的には、安全衛生委員会の実施や健康診断、ストレスチェックなどがあります。必要に応じて、長時間労働の是正や健康状態が思わしくない従業員への健康回復への取り組み、保健指導なども行います。また2015年からストレスチェックが義務化され、メンタルヘルスケアの必要性も高まっているため、特に重要な管理業務の一つです。

◆ 福利厚生の管理
福利厚生も労務管理の仕事です。福利厚生は、法定福利厚生と法定外福利厚生の2つに分けられます。法定福利厚生は、健康保険、雇用保険、労働保険などの各種社会保険が含まれていて、法律によって企業に義務化されているもので、必要に応じて手続きを行います。法定外福利厚生は、法律で定められておらず、企業独自で行う福利厚生制度です。従業員の満足度を高めるための施策で、社宅の用意・育児支援・特別休暇などがあります。よりよい職場環境を提供するために、必要だと思われる福利厚生を検討・導入・運用を行いましょう。

◆ ハラスメント対策
職場におけるセクハラやパワハラは、従業員に不要なストレスを与え、事業発展の妨げにもなります。これらハラスメントの相談窓口などを設けることも、労務管理の仕事のひとつです。従業員が働きやすい職場環境を作るためには、職場内の良好な人間関係も重要です。必要に応じて、指導や配置転換などの解決策も検討します。



  労務管理:企業統治指針とは?  2021.07.25

企業統治指針とは?

英語のコーポレートガバナンス・コードの和訳で、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。

 

背景

第2次安倍政権の成長戦略にコーポレートガバナンスの策定が盛り込まれたことから端を発していて、これを受けて金融庁と東京証券取引所がガイドラインを策定した。
1990年代後半から金融危機が相次ぎ、金融機関などが過剰リスクを抱える原因として、コーポレートガバナンスの欠如が指摘された。これによって、投資する側のスチュワードシップ・コード(資産運用受託者としての責任ある行動)と共に、投資を受ける側のコーポレートガバナンス・コードが重視されるようになった。また日本では長い間、企業活動を取締役会だけが把握して、株主利益を重視しない傾向が強かった。また利益を株主配当・設備投資・従業員への給与などに回すことに消極的な結果、内部留保ばかりを膨らませてきたという批判があった。
上場企業に対し、様々なステークホルダーと適切に協働しながら中長期的な企業価値向上を促す目的で、2015年にコーポレートガバナンス・コードが策定された。3年ごとに改定され、2021年6月11日に2回目の改定版が発表された。

 

コーポレートガバナンス・コードの基本原則

1.株主の権利・平等性の確保
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

3.適切な情報開示と透明性の確保
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

4.取締役会等の責務
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

5.株主との対話
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

 

2021年の改正点(2021年6月11日施行)

今回の改正は、金融庁及び日本取引所が事務局をつとめる「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」からの提言を踏まえ、当該提言に沿って改正を行うものです。
コーポレートガバナンス・コードの改訂の主なポイントは以下の通りです。

1. 取締役会の機能発揮
■プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
■指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)
■経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
■他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任

2. 企業の中核人材における多様性の確保
■管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
■多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表

3. サステナビリティを巡る課題への取組み
■プライム市場上場企業において、TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
■サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示

4.上記以外の主な課題
■プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任又は利益相反管理のための委員会の設置
■プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進

 

最近は、気候変動への対応や経営陣の多様性に関する企業の施策などの情報開示が求められている。また株主総会の不適切な運営や不正会計処理を指摘されるなどの問題企業もあることで、コーポレートガバナンスがさらに重要視されている。こうした観点から今回の改正では、「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材における多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」の3項目となった。

コーポレートガバナンス・コードを適切に実践した経営活動を行うことで、企業は投資家からの信頼を得られ、また株主、顧客、従業員、地域社会などのステークホルダーに対して企業価値の向上、中長期的な成長と競争力の向上を図ることができる。
上場企業に対し、コーポレートガバナンス・コードを遵守(コンプライ)するか、遵守しないのであればその理由を説明(エクスプレイン)することも求めていることです。



  労務管理:社外取締役とは?  2021.07.06

社外取締役とは?

会社法第2条15項で社外取締役は「株式会社の取締役であって、当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行役員若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがないもの」と定義している。つまり、今までその企業で社員や役員として働いた経験のない取締役のことです。主に取締役会のある日だけ出社する非常勤取締役でもある。

 

社外取締役の就任要件

社外取締役に関する要件は会社法2条15号及び16号に定められています。

● 会社や子会社の業務執行取締役・従業員でなく、かつ就任前の10年間その会社や子会社の業  務執行取締役・従業員でないこと
● 就任前の10年間のどこかでその会社や子会社の取締役・会計参与・監査役であった場合、取   締役・会計参与・監査役への就任前10年間でその会社や子会社の業務執行取締役・従業員で  ないこと
● 会社の経営を支配している者でないこと
● 親会社の取締役・従業員でないこと
● 兄弟会社の業務執行取締役・従業員でないこと
● 取締役・重要な従業員・会社の経営を支配している者の配偶者・二親等内の親族でないこと
● 就任前の10年間でその会社又は子会社の取締役・会計参与・従業員でなかったこと
● 就任前の10年間でその会社又は子会社の監査役だった場合には、監査役就任前10年間で会
  社又は子会社の取締役・会計参与・従業員でなかったこと
● 会社の経営を支配している者・親会社の取締役・監査役・従業員でないこと
● 兄弟会社の業務執行取締役・従業員でないこと
● 会社の取締役・重要な従業員・会社を支配している者の配偶者・二親等内の親族でないこと

社外取締役は、企業の不正・不祥事を監視し、投資家・従業員・取引先などのステークホルダーを守るために設置するのが大きな目的です。そのため、元々社外取締役として就任した企業と結びつきがある人や利害関係にある人は社外取締役になれません。

社外取締役の設置が必要な企業

 

2021年3月より上場企業等では2人以上の社外取締役の設置が義務化となりました。上場企業等の定義は以下の通りです。
(1)  監査役会を置き、株式の譲渡制限がない
(2)  資本金が5億円以上または負債総額200億円以上の大会社
(3)  有価証券報告書の提出義務がある
上記(1)~(3)のいずれも満たす企業が対象

 

社外取締役に期待される役割

(1) 取締役会への参加
もっとも大きな役割は、取締役の一人として、取締役会に出席して意見を述べるということにあります。社外取締役は内部のしがらみや利害関係にとらわれていないため、正直な意見をぶつけたり、厳しい意見を述べたりすることが役割として期待されます。常勤の取締役では、内部の利害関係などから質問しにくい部分についても、納得のいくまで質問をすることが社外取締役には期待されます。事業者側は、社外取締役が十分に役割を果たせるように、取締役会の議題に関する背景やそれまでの審議状況などをあらかじめ具体的に説明しておくことが望ましいと考えられます。また株主の代表として経営陣を監督し、企業の収益性や国際競争力を高める効果もあるとされます。

2) コーポレート・ガバナンス
「コーポレート・ガバナンス = 企業統治」という意味で、会社が法令を守り、不正行為や暴走をしないよう監視しする体制のことです。企業は、会社は経営者ものではなく、投資している株主のものであるという考えが根本にあります。特にバブル崩壊以降、相次ぐ企業の経営不祥事で、株主からコーポレート・ガバナンスの強化を求める声も多く上がっていることから、上場企業では、社外取締役を最低2名設置が義務付けられています。

兼務は可能?

社外取締役は、会社法上、他の会社の役員との兼任は禁じられていません。そのため、複数の社外取締役を兼務することは可能です。実際に同じ人が2~3社の社外取締役に就任しているケースなどもあります。とはいえ、あまり複数兼務していると本来の期待される役割を果たすことに懸念を持たれては元も子もありません。

 

社外取締役の求められるスキル、任期は?

法律上の就任要件はもちろんですが、それ以上に重要なのが社外取締役候補者の知見やスキルです。一人で広範なスキルをカバーできない場合、複数人がそれぞれ強みを持ち全体としてバランスを保てるかもポイントになります。最近一部の企業では、社外取締役の持つスキルを表にした「スキル・マトリックス」を開示するケースも出てきています。社外取締役がどの領域をカバーしているかを明らかにすることで経営における弱点を防ぐ効果が期待されます。他の企業の社長・会長経験者のほか、官僚、弁護士、税理士、大学教授などの専門家を登用するケースが多いのが特徴です。

 

社外取締役の任期も法令上では(非公開会社の場合)最長10年の中で設定することができます。社外取締役に求められる役割を考えると、あまりに長い任期は馴れ合いや多様性の低下につながる可能性があります。社外取締役に求めることを基準に、効果の発揮できる任期を設定しましょう。

社外取締役に内定したら株主総会の決議を経て、株主総会の日の翌日から起算して2週間以内に変更登記申請書を管轄の法務局へ提出しましょう。

社外取締役は、内部のしがらみや利害関係にとらわれることなく、企業の経営状況を外から中立的に把握することができます。
企業にとって、経営の透明性や公正性を確保することは重要な課題でもあるため、社外取締役に期待される役割は大きいといえます



  労務管理:経営会議とは?  2021.07.05

経営会議とは?

経営会議は、企業が置かれている経営環境を踏まえた上で、「経営方針」・「経営戦略」・「各事業の進捗」・「当初予算と実績数値」など経営全般について決定や見直しを行う会議のことです。

取締役や執行役員を中心として構成されており、企業戦略や事業展開に関する事項について幅広く議論を行い、その議論に基づいてさまざまな戦略を決定するのです。経営会議は、企業経営の中で意思決定を含めた重責を担っています。

 

取締役会と経営会議の違いとは?

取締役会と経営会議は一見似たような印象もありますが、これらは全くの別物であると考えておきましょう。たしかに、会社の経営方針や経営戦略を決めるという部分で、両者は似ています。ただし、経営会議はあくまでも任意で開催されるものであって、法的な規定は存在しません。

一方、取締役会は上場企業などの場合、設置が義務付けられており、決議事項や開催頻度については会社法で明確に定められています。どちらも役員が集まって行われるものですが、法的な規定が存在するかどうかに大きな違いがあるのです。

 

会社法などルールがない経営会議は、各社様々な呼び名・形式で会議を行っています。それぞれの会議にて形式・議論内容・構成を決めていただき効率的に実施していただければ、経営にとっていい方向に進んでいくことでしょう。



  労務管理:取締役会とは?  2021.07.04

取締役会とは?

取締役会は、株式会社の業務執行の意思決定機関です。取締役会は、株主総会で任命を受けた3名以上の取締役によって構成されます。この取締役の中から1名が「代表取締役」に選任され、その人が通常社長として会社のトップとなります。

余談ですが、取締役会を設置している株式会社は、原則として、取締役会の業務を監視する監査役を置く必要も生じます。

2006年に施行された会社法では、取締役会は原則として任意的機関であり、取締役会を置かない株式会社(取締役会非設置会社)も認められる。ただし、公開会社では設置が義務付けられている。
つまり上場会社など特別な場合を除いて、取締役会の設置義務はありません。取締役会を設置することで、多大な労力を要する株主総会を省けるというメリットがありますが、多くの未上場会社では取締役会を設置していないのが実情です。

その場合、会社における重要事項は株主総会で決めた上で、日々の業務執行は取締役が行うことになります。しかし、株主総会は基本的に年1回の開催のため、株主が多数いる場合には、突発的な事態に対応できません。その点、取締役会であれば、突発的な事態にもフレキシブルに対応できるようになるわけです。
取締役会は株主総会の代わりともなる機関です。株主の代わりに業務執行の意思を決定でき、株主の権限を抑えることができるほか、重要な決定事項があるたびに多くの株主への招集案内を行う手間が省けます。

 

取締役会の決議事項

取締役会では、会社における重要な事項を決めていきます。

1. 重要な財産の処分及び譲受け
2. 多額の借財
3. 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
4. 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
5. 社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
6. 内部統制システムの構築に関する決定
7. 定款の定めに基づく取締役会決議による役員及び会計検査人の会社に対する責任の免除
以上が決議事項となりますが、その他にも重要な事項がいくつかあります。

1. 譲渡制限株式の譲渡・承認取得
2. 株式分割
3. 株主総会の招集に関する事項の決定
4. 代表取締役の選任・解任
5. 利益相反取引・競業取引の承認

 

取締役会の開催頻度・時期

取締役会の開催時期に決まりはありません。基本的に、いつ開催しても問題ありません。ただし、開催頻度には会社法に「3ヶ月に1回以上は取締役会を開催しなければならない」と規定があります。ちなみに、取締役であれば、基本的に誰でも取締役会の招集をかけることができます。

取締役会での議事録作成は必須

取締役会を開催した場合、議事録を作成しなければなりません。開催日から10年間、書面・電子の形式で本店にて保存する必要があると、会社法で定められています。また、議事録は出席した取締役や監査役による署名・押印が必要になります。取締役会において「議事録に署名をした」ということは、その取締役会での取り決め決議に賛成したという意志を示すということにもなります。

議事録を作成する際は、書き漏らすことがないよう、ICレコーダーで録音することをおすすめします。発言している人は誰なのか明確にし、固有名詞、数字などにミスがないか確認して正確に記載しましょう。議事録は証拠として機能するものなので、メモとICレコーダーの両方を使って情報の確実性を上げておくことが大切です。

取締役会のメリット

1. 迅速でフレキシブルな対応が可能
年1回の株主総会で決めていた重要事項を、取締役会なら年4回以上の頻度で決定でき、状況に応じた速やかな意思決定が行えます。株主総会の開催を省略して決議できるため、意思決定の速度が上がるだけでなく、株主の権限を抑制することにもつながります。特に、資金調達の面では、募集株式の発行・新株予約権の発行を取締役会決議ですることができますので、柔軟な資金調達が可能になると言えます。

2. 会社の信用度アップ
取締役会を設置している企業は、そうではない会社と比べて、取締役会が取締役を監督する役割をしっかりと担っているため信用される傾向があり、融資を受けやすくなる可能性もあります。

3. 特定の取締役による独断専行が防げる
取締役会を開催することで、重要事項の決定について承認を受ける必要が発生するため、一人の取締役による独断的な判断を避けることが可能になります。

取締役会のデメリット

1. 役員報酬の負担が増える可能性
取締役会の開催には3名以上の取締役及び監査役が必要になります。取締役会に必要な人数を増やしたため、役員報酬が増えることもあります。

2. 手間がかかる
年1回の株主総会とは違い、取締役会は年4回以上開催されます。そのため準備はもちろん、議事録の作成や保管といった手間も発生します。

 

取締役会設置する場合の手順

1. 取締役員の人数確保
取締役が3人以上、監査役または会計参与が1人以上必要になります。

2. 定款の変更案の作成
株主総会が決定していた事項を取締役会が決めることになる旨を定款に記載する必要があります。株主総会に向けて変更案を作成しましょう。

3. 株主総会での決議
株主総会を開催し、そこで定款の変更や追加の承認を行います。

4. 法務局への変更登記
定款変更が行われてから約2週間以内に、法務局へ変更登記の申請を行なってください。

参考  株主総会と取締役会の決議はどう違う?

取締役会は、株式会社における重要な意思決定機関といえますが、株主総会とは大きく異なっています。

●株主総会は会社の根本に関わる事項など、会社の今後を左右する重要な事柄について決議を取るものです。
●取締役会は基本的に会社の日常的な業務に関する事項を決定する機関であり、株主総会で扱われる事項と比べると重要度が低いものを決定することが多くなっています。

株主総会の決議事項と取締役会の決議事項は、法律(会社法)で定められており、多岐にわたります。取締役会設置会社において株主総会は、株式会社に関する一切の事項を決議することはできませんが、重要事項の決定権限を依然として持っています。
注意が必要なのは、取締役会非設置会社において株主総会は、株式会社に関する一切の事項を決議することができます。

 



  労務管理:株主総会とは?  2021.07.03

株主総会とは?

株主総会は、株式会社の最高意思決定機関で、出資者である「株主」が集まって、役員の選任や定款の変更、合併・会社分割など、会社にとって重要な事柄について決める場であり、株式会社である以上は必ず開催しなくてはならないものです。

 

株主総会を開催する意味

少々堅苦しい“法律論”になりますが、株式会社は、流動性の高い株式を発行することによって、広く一般の投資家から資金を集めるための仕組みであり、必然的に所有と経営の分離が生じることを前提にしている。投資家は、経営の専門家である取締役に経営を委ねることにより、自ら経営またはその監督をする能力がなくても投資することができるのです。出資者である株主は、お金を払った見返りとして、『自益権』・『共益権』の2つの権利を保有することが出来ます。

●『自益権』とは、株主としての権利行使の結果が株主個人の利益だけに影響する権利(株式会社から経済的な利益を受ける権利)のことをいいます。自益権には、配当金を受け取ることのできる「利益配当請求権」や企業が解散する際の「残余財産分配請求権」などがあります。

●『共益権』とは、株主としての権利行使の結果が株主全体の利益に影響する権利(株式会社の重要な意思決定に参加する権利)のことをいいます。共益権には、株主総会での議決権は代表的なものです。

つまり株主総会とは、出資者である株主が「議決権の行使」という形で、みずからの権利を行使する場です。だから株主総会の開催が義務付けられているわけです。

 

株主総会の開催時期

定時株主総会は、決算日から3ヶ月以内に開催することが会社法で義務づけられています。
日本では3月末決算の上場企業が多いため、5月から6月(特に6月後半)に多く開催されます。さらにその中でも、6月の最終営業日の前の営業日は「集中日」と呼ばれ、最も株主総会が集中する日と言われています。

株主総会の種類

 

 

 

「定時株主総会」と「臨時株主総会」の2種類があります。定時株主総会は決められた時期に開催されますが、臨時株主総会は、定時株主総会以外で、株主総会の決議事項が発生した場合に、開催するものです。

 

 

① 定時株主総会
定時株主総会は決まった時期に開催される株主総会であり、会社法で年1回の開催が義務付けられています。法人税の税務の都合からも基本的に事業年度末の3ヶ月以内に定時株主総会を開催することが一般的です。
② 臨時株主総会
臨時株主総会は臨時で開催される株主総会であり、開催時期は完全にその会社の任意となっています。開催する回数にも制限はないため、1年に何度も開催することが可能です(実際にやる会社はほとんどありません)。そのため、緊急の事案が発生しない限りあまり開催されることはありません。

株主総会の決議事項

株主総会の決議事項は、大きく分けて、❶会社の基本的な事項に関する事項、❷役員などに関する事項、❸株主の重要な利益に関する事項、❹計算関係事項、❺会社法以外の法律が定める決議事項があります。

❶ 会社の基本的な事項に関する事項としては、定款の変更、合併・会社分割・株式交換・株式移    転、事業譲渡・譲受、子会社株式の譲渡、資本・準備金の減少、解散、会社継続、組織変更な    どがあります。
❷ 役員などに関する事項としては、取締役、監査役、会計参与、会計監査人の選解任、報酬など    の決定などがあります。
❸ 株主の重要な利益に関する事項としては、株式の併合、剰余金の配当、自己株式の取得、全部   取得条項付株式の取得、募集株式・新株予約権の有利募集などです。
❹ 計算関係事項としては、計算書類の承認、剰余金についてのその他の処分などがあります。
❺ 会社法以外の法律が定める決議事項としては、解散後の株式会社による会社法制手続き開始   の申立て、保険会社の合併などがあります。

株主総会の決議の種類

 

取締役会設置会社の定時株主総会が開催されるまでの手続きの流れ

● 招集に必要な書類作成と招集の議決
(1)株主総会で議決権を行使できる株主を定めるための基準日
          ⇒ (通常事業年度終了日と一致)
(2)計算書類、事業報告の作成、監査と取締役会の承認
(3)定時株主総会招集の取締役会

● 総会日の2週間前までに各株主に対し招集通知の発送
● 株主総会開催の準備
(1)運営方針の決定とスケジュールの作成
(2)決算期日(事業年度末日)までの事前準備
  ① 前年の定時総会での課題整理
  ② 総会準備に影響を及ぼす法令・制度改正の有無の確認
  ③ 付議予定議案とその票読み
  ④ 総会場の予約と関係者スケジュールの調整
  ⑤ 議決権を行使できる株主の確定
  ⑥ 議題の選別
  (報告事項として「事業報告、計算書類の内容報告と連結計算書類に関する監査結果の報告」    が必要)
  ⑦ 計算書類など、連結計算書類の確定手続き
  ⑧ 想定問答の準備
● 株主総会当日
  (1) 受付
  (2) 議事
  (3) 採決
     ⇒ 議事録の作成と保存
株主総会の議事については、法務省令で定めるところに従って、議事録を作成することが必要です。作成された議事録は、株主総会の日から10年間本店に、その写しを5年間支店に備え置くことが義務づけられています。

 

上場会社と未上場会社の株主総会の違い・注意点

上場会社と未上場会社の株主総会の手続きに何ら変わることはありません。基本的には会社の規模や株主の数、そして上場の有無に関わらず、株主総会のプロセスやその重要性に違いは生じることはありません。
特に上場会社にとって株主総会は不特定多数の株主に自分の会社の努力や成果をアピールする重要なイベントになります。未上場会社の場合でも、上場を目指しているのであれば株主総会は重視せざるを得ないでしょうが、中小企業で少数の株主が親族のような身内で構成されており、株主構成を変えない会社だと株主総会を軽視する傾向があります。

身内同士だとコンセンサスが取れていることが多く、わざわざ株主総会を開催する意味がないと考える経営者は少なくありません。そのため株主総会の手続きが不十分だったり、開催すらせず議事録だけを作成して開催したことにするということがあります。しかし株式会社の意思決定の最高機関である以上、株主総会はおろそかにしてはいけません。